【ノーマライゼーション（normalization）】

　1959年、デンマークでの障害者運動の中から提唱されてきた考えを表現したもの。日本でも1970年代から注目され始めた。
　意味は、高齢の人も若者も、障害を持った人も そうでない人も、すべて人間として普通（ノーマル）の生活を送るため、共に地域で暮らし、共に生きる社会こそノーマルである、という考え方。　つまり、高齢者や障害者の施設をつくり、しかも市街地から遠くへ隔離・分断するような社会はアブノーマルだという考え方である。
　この理念を受けて、老人ホームのアパート化 （グループホームと言われる）や 地域福祉の拡充、医療・教育と福祉との統合化など、さまざまな動向が現れてきている。

▲ノーマライゼーションが進むにつれ、［バリアフリー］、［ユニバーサル・デザイン］という、具体的な考え方・対策も生まれてきた。

『小さな ノーマライゼーション』　　−1993年３月−

　ある、シンガーソングライターのライブコンサートを聴きに（観に）、東京まで行った！　会場は江東区にある『深川座』という、新しいのだが昔の芝居小屋のような感じで、 100人ちょっとで満員になるような小さな所。畳敷きで「ちゃぶ台」のような丸いテーブルがあり、５〜６人で囲んで飲食しながらライブを観ることが出来るという、一風変わったライブハウスだった。
　（ＮＨＫ-ＢＳにも出てきた会場だったが、もう今はなくなってしまった…）

　車いす２人を含む障害者３人、合計７人で行った。この７人というのは、そのアーティストのファンクラブの会員で、ほとんどの人が会ってから３か月未満の人ばかりと言うのも嘘のような話であった。

　会場内では、２〜３人ずつバラバラの席になった。滑りやすい畳なので、車いすから降りて体勢を整えるまでドタバタしていると、隣にいた若い（!?）女性が「こういう時は、手を出さない方が返っていいんだよね！」と言いながら見ていた。ひと段落ついて話をしてみると、その人は民間の学童保育所の指導員をしているという。その学童保育所には、障害児もいて健常児と同じに扱っているという。自閉的傾向のある子だそうだが、あまり指導員の言うことは聞かず、他の子供たちの言うことの方がよく聞くし、子供たちの方が扱い方もうまいと言っていた。

　このようなライブなどでは、花束やプレゼントを渡すということがよくある。いっしょに行った車いすの人が、プレゼントを渡そうとそのアーティストの名前を呼ぶと、会場が小さいということもあるが、それを受け取りに客席までトコトコ降りてきてくれた。

　３時間ほどのライブが終わり、人が少なくなってから帰ろうとゆっくりしていると、そのアーティストの事務所（独立事務所）のスタッフの一人が来て手伝ってくれた。
　車いすに乗せたりの帰り支度など、私たち障害者の扱いにも手慣れており、また、出入口の４、５段の階段でも、その人 ひとりだけで車いすを降ろしてしまったのだ。
　以前から階段でのこういう経験はあるが、よほど慣れていないと本人だけでなく周囲にも恐怖感が伝わるものだ。しかし、その人は構えたところもなく、アッサリとやってしまった。日常的にやっていないと、すぐには出来ない高等テクニックだ。

　ホテルまでの往復に使った地下鉄は、エスカレーターもなかったが駅員が対応してくれたし、通りがかりの人も手伝いを申し出てくれた。会場周辺の歩道は少し古かったが、ちゃんと「黄色の点字ブロック」が一直線につながっていた。

　こうして文章にしてみると何ということもないし、実際大きな出来事ではない。しかし、このような「小さなフツーのコト」が集まって、暖かい街になるような、そんな気がした。